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「誰に習っているの?」 人はなぜか、何でも習いたがるようだ。 答をだれかから聞きたいのはことギターに限ったことではない。 理路整然とした説明など聞けば「なるほど」と腑に落ちて心地よい。 それだけでもけっこう満足できる。 最近の美術館などで解説の聞ける機械のレンタルがあって、 ずいぶん大勢の人が聞きながら鑑賞しているのも、その辺りの心理をついているからだろう。 しかし、ことギター(音楽と言ってもいい)はたとえ習って、答(弾き方の説明)を聞いたとしても、 「話は判る」という以上のものはなく、とても音にはならないだろう。 ティーチャーは問題のフレーズを弾いて聴かせてくれるだろうし、解説もしてくれるだろう。 よいティーチャーであれば、音も話もきっと納得のいくものになるだろう。 ところがそれを自分の身体で実際にやるとなると、そのままでは使えない。 各人の脳も身体もその性能はたぶんわずかずつ違い、 その個体差からやり方を変え(アレンジせ)ざるを得ないからだ。 手の大きさとか、関節の可動範囲の差。筋肉のレスポンスのスピードの差など、 違う条件のもと、それをひとつのやり方でくくるのはどうしても無理がある。 ティーチャーが示せるのは、ティーチャーのやり方だけである。 ティーチャーの模範を参考(じっさいにそこで見たり音をきけるのだから、 凄いことではあるけれど)にして、自分の感覚を頼りに、 丁寧に練習を重ねることによって探し出してこそ、 本人にぴったり合ったやり方は見えてくる。 こういう地味な作業、こういう探究こそがギターの面白み、醍醐味なのだ。 スペイン語で「誰に習っているの?」は、Con quien estudias? で con=with、quien=who、estudias=studyとすると判りやすいだろう。 教える側も習う側も「学んでいる」ということを含意しているようなこのたずね方が大好きだ。 < 大谷 環・記 > |
< 大谷 環 tamaki ohtani > 作曲家菅原明朗に師事したのち、1978年にマドリッドに留 学。スペイン王立音楽院ギター科主任教授ホセ・ルイス・ロ ドリゴに師事する傍ら、アンドレス・セゴビア、オスカー・ ギリア他の名手に指導を受ける。アンドレス・セゴビア記念 館落成記念コンサートをはじめ、ヨーロッパ各地で演奏。 1986年帰国後、リサイタルのほか、さまざまな楽器とのア ンサンブルを行う。 1953年生 ベジタリアン 趣味:太極拳 |
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